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債権者の税金対策 A事実上の貸倒れ




2011/9/1  菊 池 芳 平 

はじめに
 債権者の税務対策の一つに、法律的に債権が消滅していない場合でも、明らかに回収不能の場合は、当該債権を確定決算において貸倒れとして損金経理する方法があります。

この方法に関する法人税基本通達は以下のとおりです。 

 9-6-2 回収不能の金銭債権の貸倒れ
法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。この場合において、当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとする。

(注) 保証債務は、現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできないことに留意する。


その全額が回収できないことが明らかとなった場合 とは
  この通達の 「債務者の資産状況、支払い能力等からみてその全額が回収できないことが明らかとなった場合」 とは、どのような状態をいうのでしょうか? 

 平成17・10・28秋田地裁判決(注)は、この点について

 「 その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合に該当するか否かの判断に当たっては、債務者の財産及び営業の状態、債務超過の状況、その売上高の推移、債務者の融資や返済等の取引状況、債権者と債務者の関係、債権者による回収の努力やその手段、債務者の態度等の客観的事情に加え、これらに対する債権者の認識内容や経営的判断等の主観的事情も踏まえ、社会通念に従って総合的に判断されるべきである。」

 と判示しています。 

一般的には債務者が倒産状態にあり、支払不能(支払停止を含む) 又は債務超過(債務者が、その債務につき、その財産をもって完済することができない状態) の状態にある場合をいうものと考えられます。

 従って債務者の資産状況、支払い能力等は、破産法の破産手続開始の原因に近似した内容  (破産、民事再生、強制執行、整理の手続又は解散、事業閉鎖、休業等の事業継続を否定する事実、死亡、行方不明等の事実、天災事故、経済事情 の急変等による資産喪失の事実等) のものと思われます。(破産法15・16、民事再生法21、会社更生法17)

回収についての程度は
回収については法人の有する金銭債権につき、全額が回収できないこととありますから、その一部について回収可能性がある場合には、この通達による処理は認められません。この場合は、個別評価金銭債権の貸倒引当金の繰り入れが対象となります。(法令96@二)
 
会計処理の方法
 会計処理としては、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をするとあるので当該事業年度の確定決算において費用又は損失として経理する必要があります。

抵当権等の担保物がある場合
 抵当権等の担保物がある場合は、その担保物を処分するまでは法令上貸倒れ処理ができないので、処分してその回収金額を当該金銭債権の額から控除し、控除後の回収不能額を貸倒れとして損金経理することになります。
 

 (注) 貸金について担保物がある場合に、担保物を処分することなく貸金等の金額から処分見込価額を控除した金額を貸倒とすることは、結果的に当該貸金を評価して評価損を損金算入したことになるから、基本通9−6−2では、法人の有する貸金等について、債務者の資産状況、支払い能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになったときは、貸倒れとして損金処理することを認めているが、担保物があるときは、これを処分した後でなければ、貸倒として損金処理をすることができないと定めている。 (大阪高裁平成9年(ネ)第1564号H.10.3.13判決
  
 ただし、実質的に取り分がないと認められる場合など特別の場合は弾力的な取扱いが認められています。

担保物の処分前の場合は
 担保物の処分前で貸倒損失が計上できない場合でも、債務者において債務超過が相当期間継続し、かつ、事業好転の見通しがない場合は、当該担保物の処分見込額を控除し、その取立等の見込みがないと認められる金額を、個別評価による貸倒引当金で処理することが認められています。(法令96@二)

保証債務の扱い
 保証債務は偶発債務ですので、現実に保証債務を履行しないと貸倒れの対象とすることはできません。従って保証債務を履行(現実に支払うこと) し、取得した求償権という具体的な債権が、上記の諸条件に照らして全額回収できないことが明らかとなった場合に貸倒処理をすることとなります。

 この他、抵当権等の担保物や保証人からの回収が見込まれない場合で一定の場合は、弾力的な運用措置があります。

 
(注)
秋田地裁平成15年(行ウ)第2号法人税更正処分取消請求事件(棄却)(確定)平成17年10月28日判決
判決要旨
(1) 省  略
(2) 金銭債権を貸倒損失として法人税法22条3項3号(各事業年度の所得の金額の計算)にいう「当該事業年度の損失の額」に算入するに当たり、この規定にいう「当該事業年度の損失の額」とは、当該事業年度において、その全額が回収不能であることが客観的に明らかになったものに限られると解すべきである。そして、この回収不能とは、当該債権が消滅した場合のみならず、債務者の資産状況、支払能力等から当該債権の回収が事実上不可能であることが明らかになった場合も含むものであり、それゆえ、当該債権の回収が事実上不可能であることが明らかになった場合には、その事業年度において直ちに損金算入を行うべきであって、これに代えて、その後の事業年度において損金算入をし、もって利益操作に利用するような処理は、公正妥当な会計処理の見地からも許されないと解すべきである。法人税基本通達9−6−2(回収不能の金銭債権の貸倒れ)も、同じ趣旨に出たものとして是認することができる。
(3) 法人税基本通達9−6−2(回収不能の金銭債権の貸倒れ)の「その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合」に該当するか否かの判断に当たっては、債務者の財産及び営業の状態、債務超過の状況、その売上高の推移、債務者の融資や返済等の取引状況、債権者と債務者の関係、債権者による回収の努力やその手段、債務者の態度等の客観的事情に加え、これらに対する債権者の認識内容や経営的判断等の主観的事情も踏まえ、社会通念に従って総合的に判断されるべきである。

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