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債権者の税金対策 @法律上の貸倒れ



2011/8/1  菊 池 芳 平


はじめに
 債権者の持っている債権が焦げ付いた場合にその債権が、税務上、貸倒損失として損金に計上できるかどうかは気になるところです。

 貸倒損失として税法上、適格に計上するには、対象債権の種類、貸倒事実の内容、損金計上の時期、損金計上の方法、担保の取扱い等の要件について十分な検討を要します。

それでは、法人税法の基本通達 を参考に検討してみましょう。

 

9-6-1 金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ
法人の有する金銭債権について次に掲げる事実が発生した場合には、その金銭債権の額のうち次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。

(1) 更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があった場合において、これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額
(2) 特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において、この決定により切り捨てられることとなった部分の金額
(3) 法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるものにより切り捨てられることとなった部分の金額
イ 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの
ロ 行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの
(4) 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額


事実の発生日の属する事業年度に貸倒れとして損金の額に算入するとは

 通達 9−6−1の事実が発生した場合は、対象となる金銭債権の金額は発生日の属する事業年度の損金の額に算入するとされています。

 したがって、法人の確定決算での処理にかかわらず損金算入することになるので、損金経理(法人が確定決算において費用又は損失として経理することをいいます。法人税法2A二十五) をしていない場合は、税務申告書別表四で減算(損金算入) 処理をすることとなります。

 なお、失念により損金算入しないで申告した場合は、その確定申告期限から1年以内に限り、所轄税務署長に対し更正をすべき旨の請求をすることができます。(国税通則法23条@)

 (1)と(2)の更生計画及び再生計画並びに特別清算の協定は、認可の決定が確定すると法的にその効力が生ずるとされています(会更201、民再176、会社570)。 
 事業再生・事業再編では、この通達による債権の法的安全償却による適法な損金算入等を理由とする特別清算手続等の利用例が多くなっています。

 

破産債権の取扱いについて
 破産債権の取扱いについては、計画や協定によって法律的に切り捨てられるという手続きがないことから通達9−6−1より、むしろ 通達9−6−2の回収不能の金銭債権の貸倒れあるいは個別評価金銭債権の貸倒引当金 (法人税法施行令96条) が適用されることになると思われます。

合理的な基準とは
 (3)イの合理的な基準とはその決定に恣意性がなく、平等原則、公正衡平原則をいうものと思われます。

具体的には、発生原因、金額の程度、取引の関係、債権の発生時期等を勘案すべきですが、下請け業者等の少額債権者への優先弁済等が決められた場合は、これらの原理原則を害しない程度の差は、内容によっては合理的な基準に該当する場合もあると考えます。(少額債権者等にたいする別段の定めは、法的処理においても認められているところです。民再155条及び会更168条。)

その他の第三者の範囲
その他の第三者の範囲は、行政機関や金融機関に準じた主要な取引先等が考えられます。

相当期間とは
 (4)では債務超過の状態が相当期間継続し・・・、とあります。回収不能の判断をするためには、最低でも数年以上の期間は必要と解されますが、具体的な期間についての一律の定めはありません。個別の事案に応じて判断すべきものと思われます。債務超過については時価ベースで判断します。

 貸倒引当金の繰り入れ限度額の相当期間(法人税法施行令96@二に規定する個別評価金銭債権の債務超過状態相当期間継続による一部回収不能の場合の相当期間) が法基通11-2-6によりおおむね1年以上とされているのに比較すると、損失の確定計上と見込み計上の違いから、貸倒損失の相当期間が引当金より厳格な要件となっています。

債務免除の要件
 債務免除は金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合が要件です。相手方に返済能力があるにもかかわらず債務免除した場合は、経済的利益の無償供与とされ、寄附金と認定されるので税対策上、注意が必要です。(法人税法37@AFG)
 
 平成15.5.29宇都宮地裁判決(注)は、通達9−6−1(4)の 「弁済を受けることができない」 場合について、以下のような基礎的要素、付随的要素及び環境的要素がある旨判示しています。

 @基礎的要素
 回収不能を事実上推定しうる外部的事象(破産、民事再生、強制執行、整理の手続又は解散、事業閉鎖、休業等の事業継続を否定する事実、死亡、行方不明等の事実、天災事故、経済事情 の急変等による資産喪失の事実)が発生していること、債務者が相当期間継続して債務超過の状況にあること、売上高及び損益の通年推移が極めて悪化していること、他の債権者に対する弁済が行われていな いか、あるいは滞っていることなどであり、回収不能の判断に当たって最も重要かつ基礎的な事実。

A付随的要素
 それ自体では回収不能の認定要素にはなりえないが、基礎的要素に付随して副次的に機能し、資力測定の判断要素となるものであり、債権者が回収の努力と手段を講じていること、債権者が回収手段を講じたにもかかわらず、債務者が支払に応じないこと、弁済期が到来していること、取立費用の多寡との比較考量により回収の努力をする経済的メリットの有無、債権回収による経営的損失の程度など。

B環境的要素
 業界の好不況、業界の施策等、営業の将来性を測定する要因。



 もっともその債務免除が子会社等の整理費用や再建費用と認定される場合のその額は通達9-4-1・9-4-2により寄附金の額に該当しないとされています。(注)

 債務免除額の確定は、書面で明らかにすることが要件ですが、その形式は定められていません。したがって必ずしも公証力のある書面の必要はないわけですが、税務調査対策としては、内容証明郵便等によって放棄の証明ができる手続が妥当と考えます。

 条件が付されている債務免除については、その条件が成就するまでは貸倒処理はできないものと思われます。

(注) 寄附金に該当しない子会社等の整理費用や再建費用に関する基本通達は以下のとおりです。(参考)

 9-4-1 子会社等を整理する場合の損失負担等
法人がその子会社等の解散、経営権の譲渡等に伴い当該子会社等のために債務の引受けその他の損失負担又は債権放棄等(以下9-4-1において「損失負担等」という。)をした場合において、その損失負担等をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ずその損失負担等をするに至った等そのことについて相当な理由があると認められるときは、その損失負担等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとする。

(注) 子会社等には、当該法人と資本関係を有する者のほか、取引関係、人的関係、資金関係等において事業関連性を有する者が含まれる(以下9-4-2において同じ。)。

 9-4-2 子会社等を再建する場合の無利息貸付け等
法人がその子会社等に対して金銭の無償若しくは通常の利率よりも低い利率での貸付け又は債権放棄等(以下9-4-2において「無利息貸付け等」という。)をした場合において、その無利息貸付け等が例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものである等その無利息貸付け等をしたことについて相当な理由があると認められるときは、その無利息貸付け等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとする。

(注) 合理的な再建計画かどうかについては、支援額の合理性、支援者による再建管理の有無、支援者の範囲の相当性及び支援割合の合理性等について、個々の事例に応じ、総合的に判断するのであるが、例えば、利害の対立する複数の支援者の合意により策定されたものと認められる再建計画は、原則として、合理的なものと取り扱う。



(注)【参考判例】

宇都宮地方裁判所平成12年(行ウ)第9号法人税更正処分等取消請求事件(却下・棄却)(確定)国側当事者・栃木税務署長
平成15年5月29日判決【税務訴訟資料 第253号 順号9355】【貸倒損失の認定基準/法基通9−6−1の債権回収可能性】

判  決  要  旨
(1) 省  略
(2) 債権が回収可能であるか否かは、債務者の資産のみならず返済能力に依存することからすれば、税務計算上、損金の額に算入される金銭債権の価値減少は、当該金銭債権が消滅したか、又は回収不能の事実が発生した場合に限られる。また、回収可能であるか否かの判断は、債務者の返済能力という不可視的事由にかかわるから、その判断の公正を期するためには客観的かつ外観的事実に基づいて行われることを要するというべきである。
(3) 法人税基本通達9−6−1(4)のいう「弁済を受けることができないと認められる場合」とは、債務者において、破産、民事再生、強制執行等の手続を受け、あるいは、事業閉鎖、死亡、行方不明、刑の執行等により、債務超過の状態が相当の期間継続しながら、他から融資を受ける見込みもなく、事業の再興が望めない場合はもとより、債務者にそのような事由がなくとも、債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、資産及び信用の状況、事業の状況、債権者による回収努力等の諸事情に照らして当該債権が回収不能であることが客観的に明らかである場合をいうと解するのが相当である。
(4)・(5) 省  略
(6) 経済的に無価値となった債権の全額又は一部について、これを放棄することは経済的に合理性があるといえ、その場合には、債務者にとっても、放棄を得た当該債権の全額又は一部はもはや無価値となっていたのであるから、経済的利益の供与を受けたということはできないものの、回収不能でない債権を放棄した場合には、その放棄が債権者の如何なる事情に基づくかによらず、債務者にとっては経済的利益を無償で受けたことになるのであり、かかる点からすれば、債権者の動機の如何を問わず、回収不能でない債権を放棄した場合には、寄付金に該当すると解するのが相当である。
(7) 租税法律関係についても、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れさせて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別な事情が存する場合には、信義則が適用されることがあり得るところ、特別の事情が存するというには、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、後にその表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったかどうか、また、納税者が税務官庁の表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかを考慮する必要があるというべきである。


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