迫りくる中小企業の事業承継問題
2010/7/1 菊 池 芳 平
1.はじめに
社長の地位を誰に託すか?
この課題は経営者にとっていつかは決断しなければならない重要なテーマの一つですが、様々な問題がいろいろ絡まって課題解決を困難にしているようです。
人は必ず年をとるのですから事業承継は分かっているのですが、なかなか決断できず問題の解決を先延ばしにしてしまう経営者の方も多いと思います。
原因は、後継者候補がなかなか見つからないこともあるでしょうし、また目先の経営の問題や課題の処理に追われてなかなか手がつけられないこともあるでしょう。
2009年現在の全国の経営者の平均年齢は帝国データバンクの調査によると59歳5ヶ月となっています。
この数値は1981年以降29年連続して上昇しているようですから、日本の人口構造とともに経営者もまた高齢化しているわけです。
一方、中小企業の経営者の引退予想年齢の平均は67歳といわれます。(三菱UFJリサーチ&コンサルティング「平成17年度高齢者活用に関する実態調査報告書」)
そうすると大部分の中小企業は数年後にこの問題の対応に迫られることになります。
2.解決の方策
後継者問題は次の切り口で考えます。
A 後継者の選定
事業承継の類型としては@子息子女等による親族承継、A従業員や取引先等の関係者による承継、BそれからM&Aによる会社売却が考えられます。
子息子女の承継比率は20年以上前の8割程度から近年では約4割に低下、これに呼応して親族以外の承継比率は1割未満から約4割に増加しているようです(東京商工リサーチ「後継者教育に関する実態調査」2003年)。
これらの調査結果からも年々後継者の確保が困難になっている実態が伺われるわけですが、事業承継を子息子女にこだわらない経営者が近年増えつつあることは確かなようです。
後継者の選定にあたっては後継者候補の能力、適正、意欲等を十分に考慮するとともに他の親族や従業員の意向に注意しながら決定します。
B 関係者の理解と環境整備
事業承継した若い経営者が特に苦労するのは、@リーダーシップの発揮とA従業員との信頼関係の形成にあるようです。(東京商工リサーチ「後継者教育に関する実態調査2003年)
次に述べる後継者教育とともに早い段階から事業承継計画を公表するなど事前の説明や従業員の納得を得る方策をとることが必要でしょう。
C 後継者教育
承継計画に従って事業の各分野(営業、生産、労務、財務、経営企画など)の責任あるポストとマネジメント業務に就かせながら、現経営者の指導のもとにその実力を養うことが有効です。
D 企業支配権の承継
事業用財産と株式の後継者集中は事業承継者が円滑な経営を行うために必要ですが、相続問題もからんできますので慎重に状況をみながら移行します。
株式については後継者には議決権のある普通株式、後継者以外の経営者の親族には財産権としての議決権制限種類株式を承継させるとか、後継者の議決権の集中に対する牽制として元経営者が一定期間、拒否権付種類株式(黄金株)を保有することも有効と思われます。
E 財産の承継
事業後継者への事業承継とともに経営者の相続人に対する財産の分配方針を決めます。
基本的には先に述べたように後継者には株式と事業用財産、後継者以外の相続人にはその他の財産になりますが、納税資金と遺留分に注意しながら公正証書遺言の作成を検討すべきでしょう。
F 保証と担保の処理
保証と担保はけっこう面倒です。
社長が交代したからといって連帯保証が解除されるわけではなく、むしろ資金繰りによっては後継者にも連帯保証を求められることが多いからです。
後継者単独での保証に移行するまでの間は、経営改善によって債務の圧縮を図るかそれが難しい場合は後継者の債務保証の回避もしくは軽減について金融機関との交渉が必要でしょう。
G M&Aについて
他に適当な後継者がいない場合には、従業員の雇用や資金回収を目的として第三者に会社を売却する方法が考えられます。
M&Aの手続きの流れは、
仲介機関の選択 → 売却先との秘密保持契約と条件交渉 → 基本合意 → デューディリジェンス(詳細調査)→ 売買契約 → 資金決済(クロージング)といったかたちで進みます。
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