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債務者の税金対策 I資産の評価益の益金不算入等


2013/1/1  菊 池 芳 平

 
 
 窮境な債務者企業について、法的整理やこれに準ずる一定の事実が生じた場合は、債務免除等を含む再生計画や更生計画等が策定されます。
 この場合の計画にかかる実態貸借対照表の作成について資産の価額の評定により生じた評価益については、税務上一定の要件のもとに、益金算入が認められる場合があります。

 
資産の評価益について、その原則と特例は以下のとおりです。

1.原 則

 資産の評価換えをして帳簿価額を増額しても、その増額した部分の金額は、各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入しないというのが法人税法の原則です。
 この場合、益金の額に算入されなかつた資産の帳簿価額は、増額がされなかつたものとみなされます。(法25@C)

2.特 例
 上記の例外として更生計画認可の決定があつた場合や再生計画認可の決定があつたことその他これに準ずる政令で定める事実が生じた場合は、以下に述べるように特例として益金の額に算入することになっています。
 この場合時価の取扱いに注意が必要です。
 法人税法では、再生計画認可の決定があったことに伴う当該再生計画認可の決定があったときの価額は、当該資産が使用収益されるものとしてその時において譲渡される場合に通常付される価額によることとされています。(法25B及び法令24の2D一)(法基通4-1-3)
 しかし、民事再生法の規定では財産を処分するものとしてしなければならず、必要がある場合は併せて、全部又は一部の財産について事業を継続するものとして評定することができるとされています。(民再124@民再規56@) 
 したがって民事再生法の規定により財産の処分価額で作成された実態貸借対照表の価額が、法人税法の求める時価 (当該資産が使用収益されるものとしてその時において譲渡される場合に通常付される価額) と異なる場合は、税務申告上の評価損益の計算にあたっては、法人税法の時価に従って行う必要があります。

(1) 会社更生法等による場合の評価益の益金算入
 更生計画認可の決定があつたことにより会社更生法等(金融機関等の更生手続の特例等に関する法律若しくは保険会社が保険業法第112条(株式の評価の特例)の規定を含みます。) に従つて行う評価換えをしてその帳簿価額を増額した場合は、その増額した部分の金額は、これらの評価換えをした日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入します。(法25A)
「 時価を超える評価益の益金不算入 」
 上記の場合においても、評価換え後の資産の帳簿価額が評価換えをした時のその資産の価額(時価)を超えるときは、その超える金額相当額は益金の額に算入しないことになっています。従って当該資産の帳簿価額のその超える部分の金額は増額がなされなかったこととなり、申告調整で減算することになります。(法基通4-1-2)
(2) 再生計画認可の決定等に係る資産の評価益の益金算入
 再生計画認可の決定があつたことその他再生計画認可の決定に準ずる事実(注1) が生じた場合に、その法人がその有する資産の価額につき一定の評定(注2) を行つているときは、その資産(評価益の計上に適しないものとして政令で定めるもの(注3)を除きます。) の評価益の額として一定の金額(注4) は、これらの事実が生じた日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入します。(法25B)
(注1) 再生計画認可の決定に準ずる事実等 (法令24の2@)
 再生計画認可の決定に準ずる事実は、その法人について再生計画認可の決定があつたことに準ずる事実で、その債務処理に関する計画が次の一から三まで及び四又は五に掲げる要件に該当するものに限られます。
一 一般に公表された債務処理を行うための手続についての準則(公正かつ適正なものと認められるものであつて、次に掲げる事項が定められているもの(当該事項が当該準則と一体的に定められている場合を含む。)に限るものとし、特定の者(政府関係金融機関、株式会社企業再生支援機構及び協定銀行を除く。)が専ら利用するためのものを除く。) に従つて策定されていること。
イ 債務者の有する資産及び負債の価額の評定(以下この項において「資産評定」といいます。) に関する事項(公正な価額による旨の定めがあるものに限ります。)
ロ 当該計画が当該準則に従つて策定されたものであること並びに次号及び第3号に掲げる要件に該当することにつき確認をする手続並びに当該確認をする者(当該計画に係る当事者以外の者又は当該計画に従つて債務免除等をする者で、財務省令で定める者に限ります。) に関する事項
二 債務者の有する資産及び負債につき前号イに規定する事項に従つて資産評定が行われ、当該資産評定による価額を基礎とした当該債務者の貸借対照表が作成されていること。
三 前号の貸借対照表における資産及び負債の価額、当該計画における損益の見込み等に基づいて債務者に対して債務免除等をする金額が定められていること。
四 2以上の金融機関等が債務免除等をすることが定められていること。
五 政府関係金融機関、株式会社企業再生支援機構又は協定銀行が有する債権等につき債務免除等をすることが定められていること。

※ 再生計画認可の決定に準ずる事実の具体例としては、「私的整理に関するガイドライン」や「中小企業再生支援協議会の支援による再生計画の策定手順」 で税法適格のものがあります。(国税庁事前照会に対する文書回答事例)


(注2) 一定の評定は、次に掲げる事実の区分に応じそれぞれに定める評定となります。(法令24の2B)
一 再生計画認可の決定があつたこと
 内国法人がその有する法第25条第3項に規定する資産の価額につき当該再生計画認可の決定があつた時の価額により行う評定
二 再生計画認可の決定に準ずる事実
 内国法人が一般に公表された債務処理を行うための手続についての準則に定められた資産及び負債の価額の評定に関する事項に従つて行う資産評定

(注3) 評価益の計上に適しないものとして政令で定める資産は、次に掲げる資産となります。(法令24の2C)
一 再生計画認可の決定又は再生計画認可の決定に準ずる事実が生じた日の属する事業年度開始の日前5年以内に開始した各事業年度(以下「前5年内事業年度等」といいます。)において次に掲げる規定の適用を受けた減価償却資産
イ 国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入
ロ 特別勘定を設けた場合の国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入
ハ 工事負担金で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入
ニ 非出資組合が賦課金で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入
ホ 保険金等で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入
ヘ 特別勘定を設けた場合の保険金等で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入
ト 連結法人の個別益金額又は個別損金額の益金又は損金算入
チ 租税特別措置法第67条の4@AB第1項若しくは第2項の転廃業助成金等に係る課税の特例
リ 租税特別措置法第68条の102@AB第1項若しくは第2項の転廃業助成金等に係る課税の特例
二 短期売買商品
三 売買目的有価証券
四 償還有価証券
五 資産の価額(資産を財務省令で定める単位に区分した後のそれぞれの資産の価額とする。以下この号において同じ。)とその帳簿価額(資産を当該単位に区分した後のそれぞれの資産の帳簿価額とする。以下この号において同じ。)との差額(前5年内事業年度等において第1号イからリまでに掲げる規定の適用を受けた固定資産(同号に規定する減価償却資産を除く。)で、その価額がその帳簿価額を超えるものについては、当該前5年内事業年度等において同号イからリまでに掲げる規定により損金の額に算入された金額とその超える部分の金額とのいずれか少ない金額を控除した金額)が当該資産を有する内国法人の資本金等の額の2分の1に相当する金額と1000万円(当該内国法人の借入金その他の債務で利子の支払の基因となるものの額が10億円に満たない場合には、100万円)とのいずれか少ない金額に満たない場合の当該資産

(注4) 法第25条第3項に規定する政令で定める評価益の額とされる一定の金額 (法令24の2D)
 次の区分に応じたそれぞれの金額となります。
一 再生計画認可の決定による場合
 当該再生計画認可の決定があつた時の価額 (この場合の「当該再生計画認可の決定があった時の価額」は、当該資産が使用収益されるものとしてその時において譲渡される場合に通常付される価額によることとされています。法基通4-1-3) が当該再生計画認可の決定があつた時の直前のその帳簿価額を超える場合のその超える部分の金額
二 再生計画認可の決定に準ずる事実による場合 
 資産評定による価額を基礎とした当該債務者の貸借対照表に計上されている資産の価額が当該事実が生じた時の直前のその帳簿価額を超える場合のその超える部分の金額

(3)  適用要件等 (法25DE)
 
再生計画認可の決定等に係る資産の評価益の益金算入制度は、
@ 確定申告書に評価益の額として政令で定める金額の益金算入に関する明細の記載があり、
A かつ、評価益関係書類の添付がある場合に限り、適用され
B さらに評価損もある場合には、評価損明細の記載及び評価損関係書類の添付がある場合に限るとされています。
C ただし、評価益明細(評価損がある場合には、評価益明細又は評価損明細)の記載又は評価益関係書類(評価損がある場合には、評価益関係書類又は評価損関係書類)の添付がない確定申告書の提出があつた場合においても、当該記載又は当該添付がなかつたことについてやむを得ない事情があると認めるときは、適用することができるとされています。


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